この記事を読む前に:ヴィジガルはリオデジャネイロのファベーラです。日本の外務省はブラジルの危険情報(2026年2月20日更新)で、ファベーラには「決して近付いたり立ち入ったりしないでください」と呼びかけています。泊まることを考えている方は、予約の前にもあわせて読んでください。
夜10時。モトタクシーが、丘の中腹にある青いドアの前であなたを降ろします。眼下では、レブロンの灯りが、こぼした砂糖のようにきらめいています。どこか上のほうからは、胸に響くベースの音。リオデジャネイロのファベーラに泊まるというのは、こういうことです。ニュースの見出しに出てくる姿ではなく、洗濯物がひもに揺れ、大西洋が足もといっぱいに広がる、そんな場所に身を置くことです。
「ファベーラに泊まるべき?」と聞く人が知りたいこと
この質問は、言い方こそさまざまですが、週に何度か私たちのもとに届きます。安全なのか。本物なのか。住民を食いものにすることにならないか。泊まる価値はあるのか。どの質問の奥にも、少し不安まじりの、同じ期待があります。リオのいちばんおもしろい姿は、母親に「行ってはだめ」と言われた場所にこそあるのかもしれない、という期待です。だからここでは、ありのままに答えます。それがいちばん役に立つからです。
まずは言葉から。ファベーラは、スラムでも、バラックの集まりでも、麻薬戦争を描いた映画のセットでもありません。正規の街が「急すぎて手をつける価値がない」と見放した丘の斜面に、住民が一軒ずつ、れんがを一つずつ積み上げてつくってきた地区です。ヴィジガルは古くからあるファベーラのひとつで、始まりは1940年代。イパネマとレブロンの西の端をふさぐ双子の峰、ドイス・イルマオンスの斜面にしがみつくように広がっています。住民はおよそ1万人前後。眺めだけなら国内でも指折りの、ぜいたくな土地に暮らしています。その一方で、郵便配達員にもわかる決まった住所さえ、いつもあるとは限りません。それでも毎朝目にするのは、すぐ下のレブロンのアパートなら数百万レアルの値がつくような眺めです。
この矛盾こそが、この街の話のすべてです。地図の上では「非正規」とされ、目で見れば「とてつもない」場所に泊まるのですから。なかでもヴィジガルは、旅行者が比較的無理なくそれができるファベーラです。小さな地区で、裕福な南部(ゾナ・スル)の、レブロンとサン・コンハードのあいだに挟まれています。バックパッカーやアーティスト、好奇心旺盛な旅行者が訪れるようになって、もう10年以上になります。歩いて入るのにツアーはいりません。許可もいりません。必要なのは、少しの分別と、モトタクシーの運賃と、自分が何を引き受けるのかを、ありのままに知っておくことです。そうした滞在の倫理が気にかかるなら、それはもっともなことです。ヴィジガルを責任を持って訪ねるための記事ENできちんと考えていますが、短く言えば、来るか来ないかよりも、どこで、どうお金を使うかのほうが大切です。
ここから先はパンフレットではありません。この場所の手ざわりを書きます。最初の夜、聞こえる音、一日のリズム、誰も写真に撮らない不便なところ。そして、リオでファベーラに泊まるのがあなたに合うかどうかへの、はっきりした答えです。
数字で見るヴィジガル
数字は2026年時点のものです。通貨はドルではなくレアル。料金は目安の幅で、約束できる金額ではありません。
- ヴィジガルは、南部(ゾナ・スル)のレブロンとサン・コンハードのあいだ、ドイス・イルマオンスの斜面にあります。
- タクシーや配車アプリの車は、ふもとのニーマイヤー通りで止まってしまうことがよくあります。そこから先は、モトタクシーかコンビ(乗り合いバン)、または自分の足で上ります。
- 水は屋上のタンクから。電気は、きちんとした建物ならメーターを通して来ます。どちらも予約の前に確かめてください。
- 週末はにぎやかで、日曜の午後はほとんど静まり返ります。どちらも、ここで過ごす意味の一部です。
丘に着いた最初の夜
Uberが部屋の前まで連れて行ってくれるとは限りません。まずこれを知っておいてください。ほとんどの人が、ここで戸惑います。配車アプリの車やタクシーは、モーホ(丘)のふもと、ニーマイヤー通りの、夜も完全には眠らない小さな広場で止まってしまうことがよくあります。運転手はここで、上り坂を丁寧に断ります。その先の道は狭すぎ、急すぎ、そして何より地元の人たちの道だからです。そこであなたは、灯りが幾重にも重なる丘のふもとで、荷物を手に車を降ります。そして4秒ほど、予約しなかったホテルが、とても遠くに感じられます。
すると、番号入りのベストを着たモトタクシーの運転手と目が合います。運賃はR$10。あなたのバックパックを燃料タンクにくくりつけ、使い込まれたヘルメットを手渡して、坂を上っていきます。ここからの90秒は、まるで映画のようなバイクの旅です。ほとんど垂直に見える路地、手が届きそうな両側の壁、急なカーブ、犬、子ども、そして突然ひらけた空に、海がいっぺんに現れて、気づけばもう部屋のドアの前。興奮のあまり数レアル多く払っても、運転手は何も言わないでしょう。モトタクシー、コンビ、Uberの料金の比べ方はヴィジガルの交通ガイドENで詳しく書いていますが、最初の1回は、信じて乗るしかありません。
部屋の中は静かで涼しく、バルコニーからは、まさに見に来た景色が広がっています。でも、あなたの感覚を組み替えるのは、外のほうです。ヴィジガルでの最初の夜、まだなじまないベッドに横になると、丘が話しはじめるのが聞こえます。どこかで坂を上っていくモトタクシーの、2ストロークエンジンのうなり。ドアの閉まる音。薄い壁の向こうのテレビ、サッカーの試合、ゴール、小さな歓声。もっと上のほうからは、どこまで盛り上がるかまだ決めかねているパーティーの、低く規則的な響き。そしてそのすべての下で、建物が海に面していれば、波がいつものように寄せては返しています。あなたはひとつひとつの音を数えながら、夜中の2時ごろ、ここを好きになるか、帰る日まで指折り数えることになるかの、どちらかだと心を決めるのです。
私たちが見てきたかぎり、多くの人はここを好きになります。音があるのに、ではありません。音があるからです。ホテルの部屋は、世界のどの街にあってもおかしくない、密閉された箱です。この丘の部屋は、まぎれもなくここにあります。ガラス越しにリオを眺めるのではありません。リオの夜の中にいて、ほかの1万の家の夜と重なり合っているのです。3日目の夜には、音を騒音として聞かなくなります。この街が呼吸している音に聞こえてくるのです。
朝になると、丘はすっかり別の顔になっています。1週間もいれば、毎日が次のような枠組みに自然と収まっていきます。
- 場所
- 南部(ゾナ・スル)、レブロンとサン・コンハードのあいだの、ドイス・イルマオンスの斜面。
- 上り方
- モトタクシー(R$10ほど)、コンビ(数レアル)、または本格的な坂道を自分の足で。
- 眺め
- イパネマ、レブロン、広い大西洋。背後にはドイス・イルマオンスがそびえます。
- いちばんにぎやか
- 金曜と土曜の夜。丘の上のほうから下へ響いてきます。
- いちばん静か
- 日曜の午後2時ごろ。モーホ全体が昼寝をしています。
丘に聞こえる音
この記事からひとつだけ持ち帰るなら、音のことを覚えておいてください。眺めよりも、モトタクシーよりも、人の記憶に残るのはヴィジガルの音です。ファベーラでは、家が小さく、通りが居間の代わりなので、暮らしは屋外で、にぎやかに営まれます。ここに泊まるということは、音の風景の中に住むことです。その音には時間割があり、覚えようとしなくても自然と身についてしまいます。
夜明けはニワトリの時間です。そう、ニワトリがいるのです。人口600万の大都市の真ん中の丘にしては多すぎるほどいて、あなたの時差ぼけなど気にしてくれません。続いて、バスのブレーキの音と、最初のモトタクシー。パン屋のシャッターが上がる音。焼きたてのパン・フランセス(ブラジルの定番の小さなパン)の香りが、コーヒーより先に3階まで上がってきます。8時にもなると、路地は仕事や学校へ向かう人のふつうの往来でいっぱいです。制服の子どもたち、配達のバイク、1人数レアルで坂を上り下りするコンビ、誰かのラジオ、誰かの赤ちゃん。
昼になると、街は暑く、静かになります。そして、ガス屋さんがやって来ます。数日おきに、小さなトラックが料理用のガスを売る録音のメロディーを流しながら、路地をゆっくり上ってくるのです。「オ・ガス(ガスだよ)」と繰り返すその歌は、カリオカ(リオっ子)の頭にすっかり染みついていて、外国に住むブラジル人が聞くとホームシックになるほどです。初日はうんざりしても、帰りの飛行機では口ずさんでいるはずです。ベルを鳴らす自転車の物売り、ほうき売りの男性、くず鉄を集める女性の呼び声。いまも多くの商売が、足と声で成り立っている街の音です。
平日の夜は穏やかです。ヴィジガルにたくさんある福音派の教会では、窓を開けたまま礼拝が行われ、ゴスペルとキーボードの音が路地に流れてきます。どこかでサンバの練習があり、屋上ではパゴージ(サンバの一種)の輪ができて、カヴァキーニョ(小型の弦楽器)とタンバリンに合わせ、歌詞をみんなが知っている十数人が歌っています。訪れた人がいちばん驚くのは、こうしたヴィジガルです。パーティーではなく、火曜日の教会の音楽。そのやさしさと、なんでもない日常。
そして週末。金曜と土曜には、丘の上のほうのどこかでバイレ・ファンキが始まります。控えめな音ではありません。ファンキ・カリオカは、1980年代にファベーラで生まれたリオ育ちの音楽で、巨大な低音と積み上げたスピーカー、そして気の弱い人には向かない歌詞が特徴です。その音は夜風に乗って丘を下り、建物の場所によって、遠くの鼓動のようにも、隣の家の音のようにも聞こえます。有名な屋上のバー、たとえば丘の上のほうにあって180度の眺めのなかでパーティーを開くAlto Vidigalや、ヴィジガルを旅行者に知られる場所にしたレゲエやサンバの夜は、遅くまで大きな音で続きます。夜遊びが目的なら、その近くに泊まってください。眠ることが目的なら、丘の下のほうを選び、音のことをホストにはっきり聞いてください。店やパーティーの曜日、マナーはヴィジガルのナイトライフガイドENにまとめています。
もうひとつ、はっきり書いておくべき音があります。驚く人が多く、ネットでは大げさに語られがちだからです。ときどき、思いがけない時間に花火が上がります。たいていは誕生日やサッカーのゴール、聖人の祝日、パーティーの始まりの合図です。ただ、ファベーラでは、花火が何かの合図であることもあります。住民はどちらの場合も動じませんし、ヴィジガルでは、あなたもたいていは気にしなくて大丈夫です。でも、これは実際にあることで、ないふりをするのは、この記事が避けようとしている不誠実さそのものです。
ファベーラは、窓から眺める場所ではありません。その音の中で暮らすのです。3日目の夜には、その音が、帰ったらきっと恋しくなるものに変わっています。 予約の前には、誰も教えてくれないこと
一日のリズムと、それをつくる近所の人たち
治安が心配な旅行者が予想もしていないのが、人のあたたかさです。ヴィジガルは、私たちがこれまで暮らしたどの場所と比べても、人がとてもあたたかい街です。それはゲスト向けの演技ではありません。暮らしの大半を外で過ごす、結びつきの強い地域の、ごく自然なふるまいです。あいさつをされますし、あいさつを返すことが期待されています。昼まではボン・ジーア(おはよう)、暗くなるまではボア・タルジ(こんにちは)、そのあとはボア・ノイチ(こんばんは)。店の人にも、乗り場で客を待つモトタクシーの運転手にも、玄関先のプラスチックの椅子に座っているおじいさんにも。50年間この丘の移り変わりを見てきたそのおじいさんは、滞在中、毎朝あなたが前を通り過ぎるのを見ていることでしょう。
一日は、いくつかの決まった場所を中心に回るようになります。ふもとにあるパダリア(パン屋)は朝6時から開いていて、コーヒーと焼きたてのパンが地下鉄1回分より安く、3日目には店の人があなたの注文を覚えています。モトタクシーの乗り場は、地域のニュースデスクであり、男たちのたまり場であり、落とし物の預かり所でもあります。小さな食料品店、メルカジーニョでは、冷えたビールと卵、それに、どのアパートもいい意味で同じ香りにしてしまう、ブラジル独特の掃除用品が買えます。薬局。そして、プラスチックのテーブルが並ぶボテキン(大衆酒場)では、小さなグラスの冷えたショッピ(生ビール)と、揚げ物をひと皿頼めば、それで一晩の予定は完成です。
そして何よりも、ラージ(屋上のテラス)です。ファベーラの建物には、どれも屋上に平らなコンクリートの床があり、ラージはファベーラの暮らしが上へと伸びていく場所です。洗濯物を干し、子どもたちが凧をあげ、日曜には家族でバーベキューをし、200メートル先で観光客が入場料を払っているそのときに、カップルが無料で夕日を眺める場所。いい部屋を借りれば、あなた専用のテラスが自分だけのラージになり、気づけば滞在を延ばしたくなる理由になっているでしょう。イパネマの上に昇る朝日を見ながらのコーヒー。レブロンが金色に染まるころのカイピリーニャ。私たちの部屋のテラスで迎える朝は、どうしても部屋の中に戻れなくなるような朝です。ホステルの二段ベッドではなく、専用のアパートを借りる大きな理由はここにあります。眺めが、順番を待って見るものではなく、1週間、自分のものになるのです。
どんなホテルに泊まるときよりも、ここでは、何かを奪うのではなく、何かを差し出しているという感覚を持てるはずです。モトタクシーの運賃、パン、ビール、宿代、荷物を運んでくれた人へのチップ。そのすべてが丘に残ります。ヴィジガルには、住民がつくってきた宿やバー、アーティスト、小さな商売の経済が実際にあって、地元でお金を使うゲストは、それを眺める見物人ではなく、その一部になります。責任ある観光とは、ひとことで言えばこういうことで、じっくり考えてみる価値があります。
不便なところ
多くの人にとっては、どれも決定的な問題ではありません。ただ、どれもホテルなら黙っているようなことなので、先に知っておいてほしいのです。
- 丘は急です。何階か、モトタクシーを降りる場所から何段上るのか、エレベーターの有無を聞いてください。「オーシャンビュー」と「路地の階段を40段」は、たいていセットです。
- 水と電気には、機嫌のいい日と悪い日があります。水は屋上のタンクから来るので、出が弱くなることがあります。いい建物には予備のタンクと正規のメーターがあります。両方を確かめ、ついでにWi-Fiの速さも確認しておきましょう。
- 週末はにぎやかです。静けさが必要なら、丘の下のほうを選び、いちばん近いバイレまでどれくらいあるか、ホストに直接聞いてください。
- 現金がまだ役に立ちます。PIXやカードはどこでも使えますが、真夜中のモトタクシーや小さな店では、手元の数レアルが喜ばれます。
坂、水と電気、治安(SNSの動画には映らないこと)
ここからは、少し耳の痛い話です。夕日だけを売り込む記事は、信用に値しないからです。ファベーラに泊まるには、海沿いのホテルなら求められないことが、いくつか求められます。
まずは体のこと。ほとんどのゲストに実際に関わってくるのは、これだからです。ヴィジガルは縦に伸びた街です。メイン通りはつづら折りに上っていきますが、多くの家や貸し部屋へはベコ(階段になった細い路地)を通って行きます。写真で見ればすてきですが、荷物を持って上れば立派な有酸素運動です。膝が悪い人、ベビーカーを押している人、重いスーツケースがある人、エレベーターがないと困る人にとっては、治安のニュースよりも、こちらのほうが大きな問題になるはずです。ホストに聞くべきいちばん役に立つ質問は、「安全ですか」ではなく、「モトタクシーを降りる場所から玄関まで何段あって、エレベーターはありますか」です。たとえば私たちの部屋は、エレベーターのない建物の3階にあり、室内も階段でつながる2階建てです(荷物運びはホストが手伝います)。同じ眺めのいい部屋でも、60段の石段を上った先にある部屋もあり、玄関までの段数は物件によってまったく違います。
次に、水と電気。水は水道管で丘まで届き、屋上のタンクにためて使います。雨の少ない時期や本管にトラブルがあったあとは、水圧が下がることがあります。電気は、かつてはファベーラでガットと呼ばれる非正規の引き込みで使われていましたが、いまはきちんとした建物ではメーターがついていて、そのせいで電気代が跳ね上がった住民もいます。ゲストのあなたにとって、これはひとつの心得にまとまります。予備の水と正規の電気に投資している建物を借りれば、ほとんど気にならずに過ごせるはずです(私たちの建物でも、水の出が弱くなる日はあります)。丘でいちばん安い部屋を借りると、シャワーが戻るのを待って午後をつぶすことになるかもしれません。聞いてください。いいホストなら、ためらわずに答えます。
そして治安の問題です。脅すのでも売り込むのでもなく、はっきり答えるべき問題です。ヴィジガルは、リオのファベーラのなかでは、ふだんは落ち着いているほうで、泊まったゲストの多くも「安全に感じた」と話しています。2012年に警察の治安部隊(UPP)が置かれ、そのあと観光客が来るようになりました。この治安政策はその後、市内の多くの場所で行き詰まりましたが、小さく、人目につきやすく、宿や外国人の多いヴィジガルは、ほかの多くの場所より落ち着いた状態を保ってきました。ただし、ほかの多くのファベーラと同じように、ここにも武装した麻薬密売組織がいて、いまも活動しています。旅行者に向けられたものではなく、旅行者の注意を引こうともしていないので、1週間いても、その気配にまったく気づかないかもしれません。銃撃戦をともなう警察の作戦も、いまも起きます。直近では2026年4月20日、ドイス・イルマオンスの山頂にいた約200人が、朝7時半ごろまで下山できませんでした(けが人の報告はありません)。そうしたときのルールは単純で、近所の人たちが言葉なしに教えてくれます。室内に入る。窓から離れる。撮影しない。それ以外のときに現実的に気をつけることは、リオのどこでも同じ、すりやひったくりへの用心です。暗い路地でスマートフォンを見せびらかさない。知らないベコを夜中の3時にうろつかない。夜遅くは、歩かずにモトタクシーで帰る。治安についてはヴィジガルの治安ガイドで詳しく書いています。決める前に、読んでください。
ファベーラに泊まる価値はあるか(向いている人、向いていない人)
向いている人にとっては、ファベーラに泊まるのは、リオの旅でとてもいい選択です。少しの洗練と、少しの上り坂と引き換えに、すぐ下の通りなら10倍はするような眺め、部屋番号ではなくひとりの人として接してくれる近所の人たち、旅の残りに回せるお金、そして本当に記憶に残るリオが手に入ります。私たちの経験では、1週間泊まったカップルで、コパカバーナの高層ホテルにすればよかったと言う人は、ほとんどいません。イパネマやレブロンと比べたときの割安さは、別の記事で詳しく書いたほどはっきりしていますが、短く言えば、南部の立地に、正規の街ではない場所の条件で泊まれるということです。
でも、誰にでも向いているわけではありません。そうでないふりをすれば、合わない人を丘に上らせてしまいます。向き不向きを、はっきり分けておきます。
ヴィジガルに泊まるのが向いている人
- 眺めと街の空気が、旅のいちばんの目的の人。
- 階段とモトタクシーが苦にならず、荷物を少なくまとめられる人。
- 使ったお金が地元に残るところで、お金を使いたい人。
- 人が暮らす本物の街の中にいられるなら、少しの音は気にならない人。
- きちんと管理された建物を選び、聞くべきことをきちんと聞ける人。
やめておいたほうがいい人
- 段差のない動線やエレベーターが必要な人、あまり歩けない人。
- 静けさと、窓を閉め切って空調の効いた部屋が欠かせない人。
- フロントやコンシェルジュ、深夜3時にもいる管理人を求める人(この部屋の建物の管理人がいるのは9時から17時までです)。
- 「ファベーラ」という言葉だけで、滞在中ずっと不安になりそうな人。
- Wi-Fiが1時間止まっただけで、旅を切り上げたくなる人。
ここに挙げた理由の多くは、危険そのものより、快適さや移動のしやすさ、性格に関わるものです(治安のリスクがなくなったわけではないことは、上に書いたとおりです)。恐れにばかり目を向けていると見落としがちですが、ファベーラに泊まらないほうがいい理由の多くは、世界のどこかの坂の多い古い町で、エレベーターのないアパートを避けたくなる理由と同じです。急な坂、強い個性、手間、そして活気。それが欠点に思えるなら、自分の感覚を信じてレブロンを予約してください。それこそが魅力だと思えるなら、どこに泊まるかは、もう決まっているはずです。
ひとことでまとめると
数えきれないほどの夜をここで過ごして、私たちがたどり着いた考えです。
- 坂を上る手間と引き換えに、リオを見渡す眺めが手に入ります。
- いちばんの魅力は、この街の人たち。海はおまけです。
- 建物を慎重に選べば、不便の多くは小さくできます。
- ここが合う人なら、モトタクシーに乗ったことを後悔はしないはずです。
滞在先の選び方
答えが「泊まる」なら、すばらしい1週間になるか、そこそこで終わるかは、ほとんど、どこの何を予約するかで決まります。ファベーラ滞在は、くじ引きではありません。具体的な質問をした人ほど、いい滞在になります。
丘のどのあたりに泊まるかを、きちんと選んでください。「ヴィジガル」と一口に言っても、ニーマイヤー通りに面したにぎやかなふもとから、ドイス・イルマオンスの真下のひっそりとした丘のてっぺんまであり、どこで眠るかで滞在の雰囲気がすべて変わります。上のほうほど眺めがよく、空気が涼しく、バイレがうわさではなく隣人になります。下のほうほど上り下りが楽で、ビーチやバスにもすぐ出られます。建物の場所を正確に教えてもらい、モトタクシーの止まる場所からどれくらいあるか、土曜の夜に何が聞こえるかを聞いてください。ヒントこうした質問にはっきり具体的に答えてくれるホストは、ほかのことにも同じように答えてくれます。
地味なことほど、文字で確かめておきましょう。仕事をするなら、Wi-Fiの速さを数字で。お湯とエアコンは、どちらか一方ではなく両方。予備の水と正規の電気。エレベーターの有無と、ない場合は何段上るのか。何階か。到着したときの受け渡しの段取りも正確に。いいホストの多くは、ふもとまで迎えに来るか、信頼できるモトタクシーをよこしてくれるので、緊張する最初の10分が、解決済みの問題に変わります。どれも聞いて失礼なことではありませんし、返ってくる答えの質そのものが、何よりのレビューです。
できれば、ドミトリーのベッドより専用のアパートを選んでください。ヴィジガルにはちゃんとしたホステルやゲストハウスもあり、にぎやかで安く、それで十分な人もいます。でも、ここでの滞在を特別なものにしてくれるもの、つまり自分だけのテラス、自分だけのラージ、誰とも分け合わない朝日、レブロンの市場で買って運び上げたものを料理するキッチンは、専用の部屋ならではのものです。カップル、家族、友人同士、長期滞在なら、その差はさらに大きくなります。音の量を自分で決められるのも、この形です。静かな夜は部屋で料理をし、行きたいときだけパーティーまで歩いて上り、気がすんだら帰ってくる。
予約はAirbnbから行います。この部屋では、予約も、予約前の質問も、すべてAirbnbのメッセージでやり取りし、支払いやキャンセル規定もAirbnbの仕組みの中で扱われます。予約サイトは手数料を取りますが、お金を丘に残すことは、着いてからでもできます。パンやビール、モトタクシーの運賃のように地元で使うお金は、あなたが見に来た眺めをつくってきた地域に、そのまま届きます。旅でいちばん大きな出費のあとも、地元で使うという考え方は変わりません。
出発前の手続きも済ませておきましょう。丘より退屈ですが、同じくらい必要なことです。2026年時点で、アメリカ、カナダ、オーストラリアの国籍の人には、2025年4月に再導入されたブラジルのeビザが必要です。オンラインで申請し、有効期間は最長10年、費用は80米ドルを少し超えるくらいです。日本のパスポートなら、観光など90日以内の滞在にビザは要りません。現地での支払い方法も用意しておきましょう。使えるならPIX、なければカード、そしていつも少しの現金。モトタクシー、コンビ、R$7.90の地下鉄、新しい交通カードのJaé。どれも同じ、シンプルな毎日の決まりごとで、2日目にはすっかり慣れているはずです。この丘は、心配するより、暮らしてみるほうがずっと簡単です。
よくある質問
リオのファベーラに泊まって、安全ですか?
ヴィジガルは、ファベーラのなかではふだん落ち着いているほうで、だからこそ旅行者が訪れる場所になりました。泊まったゲストの多くも「安全に感じた」と話しています。ただし、武装した麻薬密売組織はいまも活動していて、銃撃戦をともなう警察の作戦も起きます(直近では2026年4月20日、ドイス・イルマオンスの山頂にいた約200人が朝7時半ごろまで下山できませんでした。けが人の報告はありません)。「安全です」と言い切ることはできません。そのうえで、リオのどこでも同じ用心を。暗い路地でスマートフォンを見せびらかさない、夜遅くはモトタクシーで帰る、真夜中を過ぎたら知らない路地を歩かない。決める前に、ヴィジガルの治安ガイドを読んでください。
夜は、どんな音が聞こえますか?
丘のどこに泊まるかによります。モトタクシー、遠くのテレビの音、平日の夜の教会の音楽、そして金曜と土曜には、丘の上のほうからバイレ・ファンキが聞こえると思っておいてください。眠りが浅い人は、下のほうを選び、音のことをホストに聞いてください。ときどき上がる花火はふつうのことで、住民は気にしていません。
ヴィジガルに泊まるのに、ツアーやガイドは必要ですか?
必要ありません。ヴィジガルは自由に歩いて入れるファベーラで、泊まるのにガイドはまったくいりません。初日に地元の人が案内する散策に参加すれば、街の様子がつかめて、地元にお金を落とすこともできますが、それは選択肢のひとつで、必須ではありません。外務省はファベーラの観光ツアーへの参加を控えるよう呼びかけているので、参加するかどうかはご自身で判断してください。その倫理については責任ある訪問についての記事ENで書いています。
荷物を持って部屋まで上がるには?
タクシーや配車アプリの車は、ふもとのニーマイヤー通りで止まってしまうことがよくあります。そこからは、モトタクシーならR$10ほど、コンビなら数レアルで、バッグと一緒に上まで運んでくれます。荷物は少なめにして、ふもとまで迎えに来てもらうか、信頼できるドライバーを手配してもらえるよう、前もってホストに頼んでおきましょう。いいホストの多くは、そうしてくれます。スーツケースがあるときは、モトタクシーは使わず、車を手配してもらってください。私たちの部屋はエレベーターのない建物の3階ですが、部屋までの荷物運びはホストが手伝います。
ヴィジガルで仕事ができるくらい、ネットは速いですか?
たいていは大丈夫です。丘の多くの場所に光回線が来ていて、高速回線をうたう貸し部屋も多いのですが、質は建物ごとに違います。仕事をするなら、実際のWi-Fiの速さを数字で、予備の回線があるかどうかもホストに聞き、長期滞在を予約する前に確かめてください。
ホステル、ゲストハウス、専用のアパート。どれがいいですか?
ホステルは安くて、人との出会いがあります。ゲストハウスは、その中間の快適さです。専用のアパートなら、自分だけのテラスとキッチン、誰とも分け合わない朝日があり、音の量も自分で決められます。カップルやグループ、長期滞在では、それが旅の記憶に残る理由になることが多いものです。ヴィジガルらしい滞在ができるのも、この形です。
観光客がファベーラに泊まるのは、失礼ではありませんか?
泊まって、地元でお金を使い、写真の背景ではなく人が暮らす街として接するなら、歓迎されます。嫌がられるのは、通りすがりの見物です。ツアーのバン、知らない人の玄関先に向けたカメラ、写真は撮るのにカイピリーニャ1杯も頼まない訪問者。あいさつをし、丘でお金を使い、人を撮る前には必ず声をかける。そうすれば、あなたは見物人ではなく、客人です。
リオへは、眺めを見に来たはずです。でも帰るときには、ひとつの場所の音を聞いてきたことに気づくでしょう。ニワトリ、ガス屋さん、教会のキーボード、真夜中を過ぎて丘を下ってくるベースの音。そのすべてが、夕方6時に海を金色に染める空の下に積み重なっています。それが、ホテルと丘の違いです。ホテルがくれるのは部屋。丘がくれるのは、飛行機が着いたあともずっと耳に残る1週間です。ポルトガル語には、その気持ちを表す言葉があります。サウダージ。まだ帰ってもいないうちから、もう懐かしいのです。
